言語表現法講義 ②

 言語表現法講義 (岩波テキストブックス)

 本日は加藤典洋先生の第一回目の講義。講義の題名は「頭と手」となっている。

「以下引用」

 でも、考えるというのは、やってみるとわかりますが、なかなかに辛い。ニーチェは人は同じことを五分と続けては考えられない、とどこかで言っていますが、ニーチェがそう言っている以上、我々はまあ、一分続けて同じことを考えられるのか、これは難しい、と思ったほうがいい。

 たとえば、ピクルスの瓶のふた、特に外国のもの、これ、開きませんよね。ウーン、と渾身の力をこめて、一回。ダメ。もう一度ウーン、とやって、こりゃだめだわ、と僕たちは匙を投げます。渾身の力をこめるというのは、五秒と続けられないものだ、ということがわかるでしょう。考えるというのも、このピクルスの瓶開けと似ています。ウーン、もう一度、ウーン、こりゃだめだわ。ぎりぎりのところで僕たちの考えというのは、そういう汗かきの仕事になります。書くというのは、そういうところまで、考えるということをもっていく、一つの場です。何か読んでいたら村上春樹氏が自分は書かないと何も考えられない、と言っていました。でも、ものを考えるようになる人というのは、頭がいいから、書くんじゃ決してないんです。考えるために書かないといけない、という面倒なサイクルを自分の身体に引き込んでしまった人が、考えるために書く。僕もそうです。考えるために書く。書いてみると、どこまで自分がわかっていて、どこからわからないのか、わかる。なぜわかるか。書けなくなるから。あるいは調子に乗って書いていて急に自分が馬鹿に思えてきて、その先を続けられなくなるから。

【『言語表現法講義』 加藤典洋〈かとう・のりひろ〉(1996年、岩波書店)】

 書くことによって、「以前よりその本質を良く知ることが出来た」という経験は、誰もが持っているものではないだろうか。私はブログを始めて、映画のレビューを書くようになってから、そのことを日々感じている。

 レビューを書いた事によって、その作品の自分の中での評価が一変してしまった、なんていう事がたまにあるが、それもその一例だと私は思う。

 一分しか続けて考えられなくても、書いた文章は消えずに残る(消してしまわなければ)。考えを中断した後しばらく経ってから、再び文章に向かうと、同じ地点から(場合によっては熟成された見地から)もう一度考察を継続することができる。

 その繰り返しによって、一つの事を考える時間を長くすることが可能となる。もちろん、長く考えれば必ず良い結論に達するという訳では無いだろうが。
 今度、人生の悩みにぶち当たった時、人に相談するのではなく、自分で言葉にして文章に綴ってみようと思う。

「以下引用」

 ですから、皆さんは、書けなくなると、そこでやめるかも知れないけれども、僕などは、書けなくなると、そこから書くという仕事がはじまる。書けなくなるところまで行くために、勉強して、もう勉強じゃダメ、という八合目から、山頂めがけ登るんです。

 売文業というのは、ですから、なかなか大変です。でも、書くことがそうなんです。いいですか、知っていることを書く、んじゃないんですよ。書くことを通じて何事かを知る、んです。ここを間違わないようにして下さい。

【『言語表現法講義』 加藤典洋〈かとう・のりひろ〉(1996年、岩波書店)】 

 書けなくなってから、そこから本当の意味での「書く」「考える」「何事かを知る」が始まるという加藤先生の教えを、しっかりと胸に刻み込んで文章を綴ってまいりたい。

 つまり、「書く」とは、大袈裟に言えば、瞬間、瞬間の生まれ変わりでなければならない。

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言語表現法講義 ①

 言語表現法講義 (岩波テキストブックス)

 10年以上前に読了したが、もう一度、今度はじっくりと腰を据えて、講義に参加したつもりで読み進めていきたい。

「以下引用」

 ここには、歩き方は書いていない。というのも、人は誰もが歩いているからだ。立派に歩いている人間を相手に、どうしたらうまく歩けるか、そんなことを教えるのは、ばかばかしい。そうではなく、歩くというのはどういうことか、それを一緒に歩きながら、街を歩き、野原を歩きながら、味わい、知り、考えてみようとした。書き方を教えるのではなく、書くということがどういう経験なのかを、書くことを通じて、味わい、感じることをこの授業の目的と考えた。

【『言語表現法講義』 加藤典洋〈かとう・のりひろ〉(1996年、岩波書店)】

 書くことの意味を、まだ本当には理解出来ていないのかも知れない。

 こんな私でも、もう30年以上、学校の宿題だとか、作業日報だとか、反省文だとか、人並みに何かしら文章を書いてきた。

 立派なベテランである。

 たとえ、自分のしてきた事の、「意味」が判らなかったとしても……。

 さあ、立派ではなくてもいいから、本物のベテランになるために努力していこう。
 

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