ハーモニー

 ★★★★★★★★★☆

 ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 宮部みゆきに絶賛された『虐殺器官』の著者、伊藤計劃氏のSF小説である。

 この人の構築する架空の未来社会は、メカニックやバイオテクノロジーなどに対するマニアックな知識に支えられて、ディテールへのこだわりがいつも桁外れにスゴい。

 物語としての力強さも兼ね備えている。

「以下引用」

 驚くべき意思の力を総動員して、突き刺したテーブルナイフを喉のなかで横に捻り倒すと、ぐい、と引っ張って頸動脈もろとも一気に外側へと切り裂いた。所詮テーブルナイフだ、それほど切れ味は鋭くない。まったく信じられない力だった。まるで首という丸太に、半分まで切り込みを入れたような有様だ。

 血液の飛沫が首から噴出する。

 広範囲に飛び散った滴りが、ライラック・ヒルズ六十二階に店を構えるイタリアン・レストランの内装を、ねっとりと赤く染めあげる。無表情に突発的に自傷行動に出たキアンの、首から噴出する血液のシャワーを、水を注ぎに私たちのテーブルを訪れていた給仕がまともに顔面で受け止めてしまい、気を失う。

 すべてが一瞬のうちに過ぎてゆく。そのあいだ、わたしは呆然として見つめることしかできない。カプレーゼのオリーブオイルに血が滴り、混じり合うことなく油のなかに広がってゆく。

〈/surprise〉

〈/silence〉

 他の客が叫び声をあげる。

 その瞬間、世界各地で同時に叫び声があがっている。

 なぜならその時刻、方法は様々であれ、世界の至る所で六五八二人もの人間が同時に自らの命を絶とうと試みたからだった。

〈/body〉

〈/etml〉

【『ハーモニー』 伊藤計劃〈いとう・けいがく〉(2008年、早川書房)】

 スタイリッシュである。

 私は普段あまりSF小説の類は読まないが、非常に面白く感じた。

『虐殺器官』を読んだ時にもそうだったが、今回の小説でも著者の知識の豊富さには驚かされた。主人公や登場人物も、実際にいるかのような存在感である。

 小説を読むのが好きな人でないと少し手を出しにくいかも知れないが、恐れずにページをめくれば自然に作品世界へ引き込まれていくことだろう。

 この小説で描かれた未来社会は、しかし、結末に描かれたようなところまで行き着かなければ、限りなく理想に近い社会に感じてしまうのは私だけだろうか?

 この伊藤計劃氏は一九七四年生まれであるが、もう既に病気のために他界されている。若すぎるとしか言いようがない。残念だ。ご冥福を祈る。
  

 

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