苦役列車

 ★★☆☆☆☆☆☆☆☆

 苦役列車

 読了11冊目。

 第144回芥川賞受賞作、西村賢太の小説、『苦役列車』を読んだ。

「以下引用」

 曩時(のうじ)北町貫多の一日は、目が覚めるとまず廊下の突き当たりにある、年百年中糞臭い共同後架へと立ってゆくことから始まるのだった。
 しかし、パンパンに朝勃ちした硬い竿に指で無理矢理角度をつけ、腰を引いて便器に大量の尿を放ったのちには、そのまま傍らの流し台で思い切りよく顔でも洗ってしまえばよいものを、彼はそこを素通りにして自室に戻ると、敷布団代わりのタオルケットの上に再び身を倒して腹這いとなる。
 そしてたて続けにハイライトをふかしつつ、さて今日は仕事にゆこうかゆくまいか、その朝もまたひとしきり、自らの胸と相談するのであった。
 その貫多は十日ばかり前に十九歳となっていたが、未だ相も変わらず日雇いの港湾人足仕事で生計を立てていた。

【『苦役列車』 西村賢太〈にしむら・けんた〉(新潮社、2011年)】

 私小説が苦手な私だが、どうにかこうにか読み終える事が出来た。実は受賞作を読むのはこれで4作目ぐらいだが、どうやら私には徹底的に芥川賞は合わないようだ。

 芥川龍之介の小説は、『蜘蛛の糸』を始めとして結構好きなのに不思議だ。

 この作品の良さも、正直、全然判らなかった。

 多分、それは好みの問題で、こういった種類の小説が好きな人ならば色々と味わいを感じ取る事が出来るのであろうが、私は純文学を味わう能力を今現在のところは持ち合わせていないようだ。

 もしかしたらこの作品は、読む人が読めば最高に小説世界を堪能できる「傑作私小説」なのかも知れない。

 納豆の嫌いな人間が極上の納豆を食べて評価を試みても、まるで見当外れな事を言ってしまう事だろう。
「うーん、茶色って言うところが今ひとつですな」
 とか。

 なので余分な事は書き記さず、星の数だけにとどめておくことにした。

 私の評価では星二つ。

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もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

 ★★★★★★★★☆☆

 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

 表紙の絵が恥ずかしかったが、知り合いの薦めにより購入した。

 ドラッカーの書籍を読んだ事は無いが、以前から気になる存在ではあったので入門編として読んでみようかという思いもあった。

 これはまさに題名の通りの本で、マネージャーをしている女子高生が、ドラッカーの『マネジメント』を読んで野球部をマネジメントしていくお話である。
 読み物としては少し物足りない感があるが、それは文章の好みによる問題だと感じた。内容は悪くないし、高校野球のドラマも感動的である。

「以下引用」

 もっといえば、この本を好きになりかけていたのである。だから、そのすきになりかけていた本から自分のマネジャーとしての適性を否定されるのは、絶対に避けたいと思ったのだ。

 それで、みなみはドキドキしながらその先を読み進めた。すると、そこにはこうあった。 人を管理する能力、議長役や面接の能力を学ぶことはできる。管理体制、昇進制度、報奨制度を通じて人材開発に有効な方策を講ずることもできる。だがそれだけでは十分ではない。根本的な資質が必要である。真摯さである。(一三〇頁)

 その瞬間、みなみは電撃に打たれたようなショックを覚えた。そのため、思わず本から顔をあげると、しばらく呆然とさせられた。

【『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』 岩崎夏海〈いわさき・なつみ〉(2009年、ダイヤモンド社)】

 真摯さは、言動のすべてに現れている。組織に属して働いていると、日々、それを否が応でも目の当たりにする。「真摯さ」を持ち合わせていない人間ほど、内容の無い言葉を駆使して組織の中で上手に立ち回ろうとする。

 見抜く人は見抜く。表面的にいくら取り繕っていても、「真摯さ」を演じる事は出来ない。しかし、組織の中にはそれらをまるで見抜けない人物がいて、そんな人物が上の役職を担っていたりする。

 悲劇だ。

 しかし、腐ってはならない。諦めてもならない。真摯さをまるで持ち合わせていない人間と、どのように関わって仕事をしていくかで、私自身の「真摯さ」の真価が問われている。

 負けてたまるか、である。

 ドラッカーの書籍も、今後、何か読んでみるつもり。
 
 

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対話篇

 ★★★★★★☆☆☆☆

 対話篇 (新潮文庫)

『GO』で直木賞を受賞した金城一紀の中編小説集、『対話篇』を読んだ。

 小説の中でこの人の紡ぎ出す言葉の中に、キラキラと輝いているものを時々見つけることが出来る。この中編集の中にもそんな煌めきがちりばめられていたが、ストーリーの力が今ひとつ弱いような印象を私は受けた。

「以下引用」

 僕は寂しくなった。彼女とならいつまでも歩いていられる気がした。出口が見えてきた時、僕は発作的に彼女の手を握った。彼女の手は一瞬硬くなり、すぐにもとの柔らかさに戻った。いまではその時の彼女の手の柔らかさをはっきりとは思い出せないけれど、こう思ったことだけはおぼえている。

 この子を守るためなら死んでもいい。

 たとえば、その時、動物園からライオンが逃げ出してきて、彼女を襲おうとしたら、僕はなんの躊躇もなくライオンの前に立ちはだかり、彼女のことを守っただろう。それだけは間違いない。

【『対話篇』 金城一紀〈かねしろ・かずき〉(2008年、新潮文庫)】

 金城一紀の描く恋愛はストレートで切ない。登場する女の子が無条件にキュートだ。そして、真っ直ぐな男子(概ねイケメンではない)の気持ちが、私には痛いほど良く理解できる。

 誠にお恥ずかしながら、「この子のためになら死んだっていい」という、まるで現実味も意味も無い決意を、青春時代の私は恋をする度に本気で繰り返した。
 バカである。

 ライオンの前に立ちはだかったところで、彼女を逃がすための時間稼ぎすら出来ないであろうが、恋する男の辞書には「躊躇」などという言葉は存在しないのだ。しかし、もちろん動物園からライオンが逃げ出すようなことは絶対に無い。つまり、設問自体が果てしなく無意味だ。
 要するに、バカである。

 バカであるが、「それだけは間違いない」という断言なのである。

 バカの断言は無敵である。
 理屈は通じないのだ。
 恋に理屈はいらないのである(断言!)。

 

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禁断のパンダ

 ★★★★★★★☆☆☆

 第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作、「チームバチスタの栄光」が非常に面白かったので、第6回「このミス」大賞受賞作「禁断のパンダ」を読んだ。

 思い返してみれば、私は今までにあまりミステリー小説は読んでこなかった。だからなのかも知れないが、作者にあっさりと騙されてしまった。それが結構気持ちがいいもので、今後、少し癖になりそうな気がする。

 本書は、料理に関する専門的な記述もあって、グルメな私(大嘘)は、大変興味深く読むことができた。

「以下引用」
 ワインをひと口飲んだ瞬間、幸太は目を見開いた。サービスマンがテーブルにクリスタルのワイングラスを置き、ボトルから中身を移してあったデカンタで白ワインを注いでいったときから、その澄み切った蜂蜜のような色と、微かに鼻腔をくすぐる甘い香りが気になっていたのだが、そのときは、まさか、という思いのほうが完全に勝っていてわからなかった。

 すぐにもう一度ワインを口に含み、今度はじっくりと舌の上で転がした。とろりとした舌触りと甘く高貴な味わいが広がった。間違いない、と幸太は確信した。一年前、結婚祝いとして知人から贈呈されて以来、忘れられない味がそこにはあった。

「この香りはディケムやな」

 幸太の驚く様子を眺めていた中島翁が、ぼそりと呟いた。

 シャトー・ディケム。糖度の高い甘口ワインである。貴腐ワイン、の中でも世界最高峰の品質として知られ、純金のワイン、とも呼ばれているそのフランス産白ワインは、味もさることながら値段も非常に高価なものだった。以前、幸太が訪れたことのあるレストランのワインリストには、最良の年とは言い難いヴィンテージのフルボトルで、一本八万円もの値段が付いていた。世界の食通たちの間では、フォアグラとよく合うワインとしても知られている。

 その高価なシャトー・ディケムが、まさか披露宴用のグラスワインとして出てくるとは思いもしなかった。そのことにも驚いたが、漂ってくる香りだけを嗅ぎ取って銘柄を言い当てた中島翁には、もっと驚いた。にわかには信じ難いことだった。

「わかるんですか」思わず、幸太は言葉を発していた。

「わかりますとも」中島翁は、事もなげに言った。「この、桜桃や杏、カラメルを思わせる甘く豊かな香りはディケムしかない。更に言いますと、そのディケムからは若さを感じますな。しかし、幼い若さではなく、成熟した若さです。おそらくは十年程前の偉大なヴィンテージ……一九九七年のものでしょう」

「まさか……」幸太は絶句した。それが本当だとしたら、卓越した知識もさることながら、この老人は驚異的な鼻を持っていることになる。
 幸太の思いを察したのか、中島翁は相好を崩した。

「信じられない、といった顔つきですな。よろしい、証明してみせましょう」

 そう言うと、中島翁は手を挙げてサービスマンの一人をテーブルに呼んだ。

「こちらの青年に出したワインの銘柄と、それが何年のものなのかを教えてくれ」

「かしこまりました」サービスマンはうやうやしく答えた。「料理に合う白ワインをという御要望でしたので、オードブルに合わせたものを御用意致しました。シャトー・ディケムの一九九七年ものでございます」

【『禁断のパンダ』 拓未司〈たくみ・つかさ〉(2009年、宝島社文庫)】

 私は酒の味は全然わからない。ワインなんてサントリーの一番安い物しか飲まない。それも、美味しいなんて一度も思った事はない。酒は味わうためではなくて、酔うためか眠るために飲むだけだ。

 酒の話はさておき、ミステリー小説を読むっていう娯楽は、結構な常習性を持っている物なのかも知れない。

 星七つ。

 ミステリーと、料理が好きな人にはお勧めの一書である。
 

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退職刑事

 ★★★★☆☆☆☆☆☆

 永瀬隼介の短編集、退職刑事を読んだ。

 この人の小説を読むのは、多分、三作目である。短編は初めて。

 以前読んだ二作品(ポリスマン、Dōjō―道場)は、どことなく悲しみが滲んでいるような、それでいて希望を感じさせるような小説であったが、この短編集には人間の暗部ばかりが描かれていて救いが感じられなかった。

 星四つ。

 【『退職刑事』 永瀬隼介〈ながせ・しゅんすけ〉(2010年、文春文庫)】

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虐殺器官

  ★★★★★☆☆☆☆☆

 近未来軍事諜報SFです。

 帯で、宮部みゆきが「私には三回生まれ変わってもこんなのは書けない」と絶賛していたので購入しました。

 確かに凄い作品だと思います。
 作者である伊藤計劃(いとう・けいかく)氏は、私が読む限りただ者ではありません。小説の中に出てくるテクノロジーや軍事に関する用語は、一体どこまでが事実に基づいていて、どこからが作者の創作なのか、私にはまるで区別が出来ませんでした。

「以下引用」

 ぼくらが語る言葉の下に潜むもの。
 ぼくらが日常的に言葉から掬い取る「意味」をあざ笑うレイヤー。
 ジョン・ポールが語っているのは、そういうことだ。言葉にとって意味がすべてではない、というより、意味などその一部にすぎない。音楽としての言葉、リズムとしての言葉、そこでやり取りされる、ぼくらには明確に意識も把握もしようがない、呪いのような層の存在を語っているのだ。
「……耳にはまぶたがない、と誰かが言っていた。わたしの言葉を阻むことは、だれにもできない」
 ぼくは月明かりの影になったジョン・ポールの瞳を見ようとした。窓越しの満月(ルナ)は白く輝いていたが、その瞳に狂った(ルナティツク)ところは少しもないことに、ぼくは愕然とする。ジョン・ポールは完璧に正気で、それどころか少し哀しげであるようにすら見えた。
「あんた狂ってるよ」
 ジョン・ポールの正気は百も承知で、それでもなお、ぼくはそう言わずにはいられなかった。
【『虐殺器官』 伊藤計劃〈いとう・けいかく〉(2007年、早川書房)】 

 文体はスタイリッシュです。近未来世界が非常にリアルに描かれています。人物描写にも深みがあります。

 こう書くとべた褒めですが、私はそれほどのめり込めませんでした。それは単に好き嫌いの問題で、この手のSFが好きな人にはたまらない一冊だと思います。

 物語の核となるアイデアも洗練されています。

 細部にも行き届いた世界観が綴られています。

 読み終わった今、宮部みゆきの帯の言葉にも納得です。

 こう書くと大絶賛ですが、私の心は何故か躍りませんでした。
 どうしてなんだろうか?

 うーん……。(あばれはっちゃくスタイルで考えています)

 閃いた!

 多分、この物語が暗すぎるから、私は好きになれないんだと思います。
 とにかく、「暗い」というのが私がこの物語に感じたことです。物悲しいだとか、切ないだとか、悲劇だとかとはまた違う、徹底的な救いのない「暗さ」を、私は受け入れられなかったのかも知れません。
 
 スタイリッシュなSF(近未来軍事諜報系)が好きで、暗くても大丈夫という人には是非ともお勧めの一冊(フォローではなく文句なしの傑作)です。

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