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日本一心を揺るがす新聞の社説

 ★★★★★★☆☆☆☆

 日本一心を揺るがす新聞の社説―それは朝日でも毎日でも読売でもなかった

 読了2冊目。

 確かに、所々にいい事が書いてある。いい事は書いてあるのだが、ただ、「日本一心を揺るがす」はちょっと大袈裟なように感じた。

「以下引用」

 若き日の明石さんにとって三船敏郎から学んだことはあまりにも大きかった。
 明石さんの口からよく出てくる言葉がある。「人間を極めろ!」「演技力は人間の魅力に勝てない」「頭で考えることは心で感じることに勝てない」

「人間を極めろ!」とは、「人間としてのプロになれ!」ということだ。役者である前に人間としてどうか。あいさつはちゃんとできるか。年上の人を敬っているか。思いやりの心で人と接しているか、人としての道理をわきまえているか。
「それが人としての基礎だ。基礎とは鉄骨である。鉄骨が入っていないと、いつか映画やテレビの世界から消える」と明石さん。

 黒沢監督が認めた数少ない俳優の一人に仲代達也がいる。
 彼がまだ19歳で、俳優座という劇団の研究生だった頃、『七人の侍』という映画の通行人の一人に抜擢された。通行人だから、ただ歩くだけ。時間にしてわずか3秒くらい。だが、仲代達也の歩くシーンに黒沢監督はなかなかOKを出さなかった。
 言われた通りに歩いているのに、「その歩き方はなんだ!」と何度も罵声が飛んだ。撮影は朝の9時からスタート。お昼になり、昼食を済ませて再び撮影開始。またもや罵声の連続。3秒間、ただ通行人として歩くだけなのに、OKが出たのは午後3時だった。

 俳優の卵とはいえ、仲代達也の自尊心はボロボロだった。このとき、彼は思ったそうだ。「絶対俺は黒沢監督が認める俳優になってやる。そして黒沢監督が出演依頼に来たら絶対断ってやる」

 7年後、仲代達也は俳優として名を上げていた。黒沢監督は、『用心棒』という映画で三船敏郎の相手役に仲代達也を選んだ。当然、仲代は断った。7年前の屈辱を忘れていなかった。
 見込んだ俳優を絶対に諦めないのも黒沢監督だ。何度も何度も説得した。仲代達也は7年前の屈辱を話した。それでも黒沢監督は言った。「お前じゃないとこの映画はできない」。「世界の黒沢」から認められた瞬間だった。あの屈辱が仲代達也を育てた。

 明石さんは俳優養成所で俳優の卵に言う。
「人間は失敗し、挫折するものだ。時には心底屈辱を味わうこともある。人はそんなとき、『もうやめよう』と思うものだ。いいか、自分を強くするツボを持っておけ。たとえば、過去の屈辱。それを思い出し、『コンチクショー』という気持ちから一歩前に進めたら必ず成功する」

 明石さんの話は映画界の話だったが、あらゆる仕事に通用する話だった。

「人間を極める」、いつも胸に刻んでいたい言葉と出会った。

【『日本一心を揺るがす新聞の社説 それは朝日でも毎日でも読売でもなかった』 みやざき中央新聞 編集長 水谷もりひと〈みずたに・もりひと〉(2010年、ごま書房新書)】

 ただ歩くだけの3秒に、黒沢明はどんなこだわりを持っていたのだろう。

 没シーンとOKシーンがあれば比べて観たい気がする。きっと違うんだろうね。私には違いが判らないかも知れないけど……。

 朝9時から午後3時まで、繰り返し罵声を浴びせられたら私ならどうするだろうか。たいしたことない無名の監督だったら多分ぶっ飛ばしちゃうだろうが、相手が「世界の黒沢明」だったら余裕で我慢出来ると思う。

 そして、それを別に屈辱とも思わない。『やっぱ、黒沢さんはスゲエ!』って、心底から感動しちゃうと思う。『いやはや恐れ入りました』と。

 それは38歳の私だからで、19歳の私だったとしたら、多分、相手が黒沢明でも蹴っ飛ばすくらいの事はしちゃうかも知れない。で、俳優は放り出して監督を目指す。ま、目指そうとしても干されるか……。

『コンチクショー』という気持ちは、ずっと持ち続けている。私の青春は、『屈辱』『コンチクショー』『屈辱』『コンチクショー』の連続だった。私は今も青春真っ直中(38歳、射手座)。

 過去の屈辱なんていつも覚えてるし、『コンチクショー』っていつも叫んでるし、いつも前に向かって進んでいる。そして、それだけじゃ足りない何かを、いつも自分の中から掘り起こそうと藻掻いている。

 過去の屈辱を思い出し、『コンチクショー』という気持ちから一歩前に進めたら必ず成功できる程、人生は単純ではないと私は思う。
 いや、『コンチクショー』はとっても大切だし、そこから一歩前に進むのも非常に大切なんだけれど……。そこからもう一歩踏み込んだ何か、運だとか、タイミングだとか、縁だとか、方向性だとか、時代だとか、色んなものの複合が成功には必要なんじゃないかって感じている。根底にあるのはもちろん持続・継続力。

「人間を極める」は確かに響きのいい言葉だが、あいさつをちゃんとして、年上の人を敬い、思いやりの心で人と接し、人としての道理をわきまえる、何てたった二行の言葉で言い表せるものではないだろう。

 何だか少し批判的になってしまって申し訳ないような気がするが、本書『日本一心を揺るがす新聞の社説 それは朝日でも毎日でも読売でもなかった』には本当に、所々にいい事が書かれている。

 今度、黒沢映画『用心棒』をツタヤで借りて来るつもり。 

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