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そのノブは心の扉

 ★★★★☆☆☆☆☆☆

 そのノブは心の扉 (文春文庫)

 私は劇団ひとりのネタが大好きである。

 以前に読んだ劇団ひとりの著書、『陰日向に咲く』がとても良かったので期待して読んだ。

 帯には「アブナイほどストイック。だから笑える、ひとりの日常」と書かれている。
 確かにストイックかも知れないが、アブナイほどではない。だから、それほどは笑えなかった。

 劇団ひとりのネタは、劇団ひとりが演じるから面白いのであって、ネタを文章で読んでも面白さはあまり伝わらないだろう。本書を読んで受けた印象は、残念ながらそんな感じである。

「以下引用」

 駄目ナルシスト

 腕から血を流した少年が必死で傷口を押さえ止血しようとしている。しかし、勢いよく噴出する血は指の間から流れ出て、辺り一面に血の海を作りだしていた……。

 これ、中学一年の時の僕です。ふざけて机の上で踊っていたらバランスを崩して、転げ落ちる際に机の角にぶつけたんです。今も腕にハッキリと傷痕が残ってるぐらい大きな怪我でしたから、相当な出血でした。そんな大量の出血なのに何故、僕は保健室にも行かず自分で止血しようとしたのでしょうか。ふざけていたことを先生に怒られるのが嫌だったからではありません。

 それほど出血している姿をクラスメートに見せるためです。かと言って自ら率先して見せるのではなく、どちらかと言うと血を見せないように隠しながら、でも完全には隠さないで「うぐぐっ」と苦悶の表情を浮かべながら見せるのです。そして、一通りクラスメートの皆に見てもらってから保健室に向かいます。何故、そのようなことをしていたのか。それはそれが格好いいと思っていたからです。

 つまり僕はナルシストなのです。さらに限定して言えば『駄目ナルシスト』なのです。あまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、この駄目ナルシストは決して僕だけではなく周りを見渡せば多く存在するはずです。駄目ナルシストは通常のナルシストと違って、ネガティブな出来事に反応します。それは恐らく映画や漫画などに登場する駄目なアンチヒーローの影響かもしれません。ボクシングを見ていても勝利者インタビューを受けている選手より、傷だらけでリングを降りる敗者に自分を重ねて酔いしれてしまう、そんな連中を駄目ナルシストと呼びます。

【『そのノブは心の扉』 劇団ひとり〈げきだん・ひとり〉(2010年、文春文庫)】 

 流血をクラスメートたちに見せようとする気持ち、世の男性はよく分かるのではないだろうか。私の中学時代の同級生には、顔に傷痕を付けようと、自分でカッターで切りつけたヤツがいた。顔の傷痕で、周囲の人間をびびらせようとしたのだ。
 カッターは切れ味が鋭く、結構痛い思いをしたらしいが傷痕は殆ど残らなかった。間抜けである。

 しかし、それらの行為は、劇団ひとりが書いているように、駄目さとか、ネガティブな部分にナルシシズムをくすぐられているのとは少し違う。

 男子にとって流血事件は、やんちゃさを演出するアクセサリーの一つなのだ。顔の傷痕は、傷つくことを恐れずに戦った勇者の証なのである。自分でわざと傷痕を付けていようと、周囲の人間はそんな風にはまず思わないだろう。

 告白しよう。

 私は中学の頃、はんだごてで、胸に七つの傷跡を付けようとして挫折した経験がある。

 中学時代の自分が、あっさりと挫折してくれていて本当に良かったと、今は心からほっとしている。 

 

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