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対話篇

 ★★★★★★☆☆☆☆

 対話篇 (新潮文庫)

『GO』で直木賞を受賞した金城一紀の中編小説集、『対話篇』を読んだ。

 小説の中でこの人の紡ぎ出す言葉の中に、キラキラと輝いているものを時々見つけることが出来る。この中編集の中にもそんな煌めきがちりばめられていたが、ストーリーの力が今ひとつ弱いような印象を私は受けた。

「以下引用」

 僕は寂しくなった。彼女とならいつまでも歩いていられる気がした。出口が見えてきた時、僕は発作的に彼女の手を握った。彼女の手は一瞬硬くなり、すぐにもとの柔らかさに戻った。いまではその時の彼女の手の柔らかさをはっきりとは思い出せないけれど、こう思ったことだけはおぼえている。

 この子を守るためなら死んでもいい。

 たとえば、その時、動物園からライオンが逃げ出してきて、彼女を襲おうとしたら、僕はなんの躊躇もなくライオンの前に立ちはだかり、彼女のことを守っただろう。それだけは間違いない。

【『対話篇』 金城一紀〈かねしろ・かずき〉(2008年、新潮文庫)】

 金城一紀の描く恋愛はストレートで切ない。登場する女の子が無条件にキュートだ。そして、真っ直ぐな男子(概ねイケメンではない)の気持ちが、私には痛いほど良く理解できる。

 誠にお恥ずかしながら、「この子のためになら死んだっていい」という、まるで現実味も意味も無い決意を、青春時代の私は恋をする度に本気で繰り返した。
 バカである。

 ライオンの前に立ちはだかったところで、彼女を逃がすための時間稼ぎすら出来ないであろうが、恋する男の辞書には「躊躇」などという言葉は存在しないのだ。しかし、もちろん動物園からライオンが逃げ出すようなことは絶対に無い。つまり、設問自体が果てしなく無意味だ。
 要するに、バカである。

 バカであるが、「それだけは間違いない」という断言なのである。

 バカの断言は無敵である。
 理屈は通じないのだ。
 恋に理屈はいらないのである(断言!)。

 

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