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ビューティ・キラー 1 獲物

 ★★★★★★☆☆☆☆

 ビューティ・キラー1 獲物 (ヴィレッジブックス F ケ 3-1)

 海外のミステリー小説を久しぶりに読んだ。作者のチェルシー・ケインはアメリカ人女性である。

 今までに私はミステリー小説をあまり読んでおらず、多分、海外ミステリーだけに関して言えばこの作品で四作目ぐらいだと思う。

 話の筋はそれほど面白いと感じなかったが、丁寧な描写の文章が読んでいて心地よかった。グレッチェン・ローウェルという連続殺人鬼もリアルに感じられる。

 主人公、アーチー・シェリダンという人物の壊れ方にも説得力がある。

 ほんの四作品程度しか読んでいないのにも関わらず大口を叩かせて貰えば、海外のものの方が日本のミステリー作品より、小説としての完成度は高いのではないだろうか。

 その意見の根拠として一つだけ例を上げるとすれば、海外作品の方が日本のミステリー作品よりも描写に対する注意力が細部にまで行き届いているのだ。その分、文字数が大幅に増えてしまうが、私は「神は細部に宿る」という言葉は一つの真理であると思っている。

 今後、その意見は覆るかも知れないが、現時点での私の正直な印象である。

「以下引用」

 その最初の晩、グレッチェンが眠らせてくれないので、アーチーはすでに時間の経過がわからなくなっている。なにかの覚醒剤を打たれたあと、何時間も放置されている。鼓動が激しく、真っ白な天井を見ながら首の脈と両手の震えを感じること以外、なにひとつできない。胸の血はもう乾いていて、いまはむずむずする。息を吸うたびに激痛が走るが、それより耐えがたいのはむずがゆさだ。しばらくのあいだ、時間の経過をはかるために数を数えてみるが、意識がよそへ流れて数がわからなくなる。すぐそばの床にころがる死体のにおいからすると、ここに来て二十四時間はたっている。でも、それ以外のことはわからない。だから、アーチーは見つめる。そしてまばたきをする。そして息をする。そして待つ。

【『ビューティー・キラー 1 獲物』 チェルシー・ケイン〈高橋恭美子訳〉(2008年、ヴィレッジブックス)】

 連続殺人犯グレッチェン・ローウェルのキャラクターには魅力を感じさせられた。

 物語に登場する連続殺人鬼と言って最初に私が思い描くのは、映画、『羊たちの沈黙』に登場した、アンソニー・ホプキンス演じるハンニバル・レクターである。

 物語の中核になる人物であるだけに、両者ともに人を惹きつけるカリスマ性を十分に備え付けられている。

 これをはき違えてはならない。

 小説を読んだり、映画を観た人の一部は、本当は人物のキャラ設定に惹きつけられている筈なのに、その行いをするが故の魅力なのだと勘違いを起こしてしまう危険性があるのではなかろうか。

 少し前、英国人英会話講師リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害で逮捕された市橋容疑者を応援するファンクラブが一部ネット上で結成された、という非常に腹立たしいニュースがあったが、そんな事象には、物語に登場する魅力的な要素を持った悪役の影響が少なからずあるのではないだろうか。

 良きにつけ悪しきにつけ、物語には力がある。

 そして、物語の受け手には、残念ながらモラルの欠片もないような人物も含まれているのだ。 だからといって、私は、この手のフィクション作品を非難するようなつもりは毛頭無い。

 声高に非難されるべきなのは、実際に殺害された被害者がいるにも関わらずファンクラブなどというものを結成した、モラルの欠如した人物の浅はかな行動である。
 

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