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ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記 ⑦

「以下引用」

 伯父ががっくりとくずおれた時、一人の子供がとりわけ大きな叫び声を上げた。九歳になる伯父の末子ジャン・ボスコだ。シボマナはマチューテの一撃で子供を黙らせる。キャベツを割るような音と共に、子供の頭蓋骨が割れる。続いて彼は四歳のイグナス・ンセンギマナを襲い、何故だか分からないがマチューテで切り付けた後で死体を外に放り投げた。イグナスの青いショートパンツが切り裂かれて、尻がむき出しになっていたのを覚えている。このような状況でなければ、笑っていたにちがいない。

 血が血を呼ぶ。荒れ狂う暴力。シボマナは地面に横になっている祖母を踏んだ。暗くてよく見えなかったのだ。彼が祖母を殺そうとすると、祖母は断固とした口調で言った。

「せめてお祈りだけでもさせておくれ」

「そんなことをしても無駄だ! 神様もお前を見捨てたんだ!」

 そして祖母を一蹴りしてから切り裂いた。

 私はその時何も感じていなかった。恐怖、恐怖、恐怖しかなかった。恐怖にとらわれて私の感覚は麻痺し、身動きすることさえできなかった。クモの毒が急に体温を奪うように。心臓がどきどきし、汗が至るところから噴き出す。冷え切った汗。

 シボマナは切って切って切りまくった。他の男たちも同じだ。規則的なリズムで、確かな手つきで。マチューテが振り上げられ、襲いかかり、振り上げられ、振り下ろされる。よく油をさした機械のようだった。農夫の作業みたいに、連接棒の動きのように規則的なのだ。そしていつも、野菜を切るような湿った音がした。

【『ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記』 レヴェリアン・ルラングァ/山田美明[訳](2006年、晋遊舎)】

 シモン・シボマナ(今回引用した部分の中で、シボマナと書かれている人物の名前)を始め、フツ族の人間が行った残虐な行為の凄まじさに、何一つ言葉が浮かんでこない。

 筆者が「キャベツを割るような音」と表現しているが、シボマナはツチ族の人間を野菜か何かだと本気で思っていたに違いない。

  狂っているとしか言いようがない。

「せめてお祈りだけでもさせておくれ」

 自分が殺されようとしている時に、断固とした口調でそう言える筆者の祖母を、私は無条件で尊敬する。そんな状況に追い込まれても尚、筆者の祖母は自らの信仰を貫き、取り乱さずに「人間の言葉」を断固とした口調で言ったのだ。

  ヴィクトール・E・フランクルの著した『夜と霧』の中に書かれていた、以下の言葉を私は思い出す。

「以下引用」

「人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。人間とはガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ」

【『夜と霧 新版』 ヴィクトール・E・フランクル〈池田香代子訳〉(2002年、みすず書房)】

 アウシュビッツでガス室に送り込まれても毅然として祈りのことばを口にした存在と、虐殺されようとしている時に信仰を貫いて人間の言葉を断固と口にする存在が、私には遙か遠い境地に重なり合って見える。

 そんな崇高な存在とは対極の位置にいる狂った男たちは、規則的な機械のような動作で次々と人間を殺しまくったのだ。

 こんな悪魔たちを絶対に許してはならない。

 そのためにも、この『ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記』という正義の鉄槌の書を、一人でも多くの人に読んで貰いたい。

 そして、感じ、考え、悪を絶対に許さない平和のための怒りの焔を、生命の奥底の部分に点火して赤々と燃えあがらせて欲しい。

 絶対に、絶対に、絶対に、こんな狂った悪魔どもをのさばらせたままにしておいてはならない。この世界にある正義をかき集め、断固、鉄槌を下すのだ。悪に立ち向かうには、心正しき人間が力を合わせるしか方法は無い。

 正しい人間の心を結びつけていくためには具体的にどうしていけばいいのだろうか。

 私たちひとり一人が「世界の現実」を知るために学び、その上で兎に角、「声を上げる」のだ。

  正義は行動によってでしか示しようが無いのだから。

 私たちは、心の奥に正義を仕舞い込んだままにしておいてはならぬ。自発的に、能動的に、光り輝かせていかなければ、正義など胸の奥底で錆び付いてしまう。

 錆びてぼろぼろになった正義では、シボマナのマチューテを防ぐことは出来ない。
 
 

ルワンダ大虐殺 〜世界で一番悲しい光景を見た青年の手記〜

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