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ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記 ⑤

「以下引用」
 この調和がどうして壊れてしまったのか? なぜ民族同士が互いに憎み始めるようになったのか? 誰が原初の協定を破ったのか? こういった問いがしつこく鳴り響き、私はその残響に追い回されている。こんな想像を絶するようなことがどうして起こりうるのか? もちろん、いくつか仮説を立てて先に進むこともできるが、それが今の目的ではない。私にはそうする気もないし、そうする能力もない。それにどんな答えにしても、私にはそれが十分な回答だとは思えないのだ。あのジュノサイドは、政治的動機や経済的理由はもとより、民族的対立からでさえ説明することはできない。私はそう確信している。人間によって犯されたあのような非人間的行為には、底知れぬ「悪徳の謎」といったようなものがうごめいているに違いない。

【『ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記』 レヴェリアン・ルラングァ/山田美明[訳](2006年、晋遊舎)】

 底知れぬ「悪徳の謎」は、いつの時代にもこの世界のどこかでうごめいている。そのうごめきが爆発的なマグマとなって噴出した時、歴史の上に最悪の悲劇が刻みこまれる。

 ジュノサイドが起きた「理由」を事細かに分析して様々な仮説を立てる事は可能であろうが、著者が書いているようにその「本質的な原因」には決してたどり着くことはできないだろう。

 ルワンダだけが特別な場所ではない。フツ族だけが特別な種族でもない。底知れぬ「悪徳の謎」は、決して遠い世界だけにうごめいているのではないのだ。うごめいている場所は、他ならぬ人間の心の中だ。

 私たちは、この「悪徳の謎」を前に、無力に立ち尽くすことしかできないのであろうか。 以前、このブログで取り上げた部分で著者のレヴェリアン・ルラングァ氏は、

「仕返しできることがあるとすれば、それは証言することだけだ。犠牲者に敬意を表し、生存者に償いと尊敬をもたらすために。そして、私を殺そうとした男も含め、まだ罰を受けていない人道に反した無数の犯罪者に正義の鉄槌を下すために」

 と述べている。

 書籍が出版されて、正義の鉄槌は下されたのだろうか。

 今、私にはそれを調べる術はないが、多分表面的には、著者を納得させるような「正義の鉄槌」は未だ下されていないように見えるだろう。

 しかし、私は、レヴェリアン・ルラングァ氏の命懸けの証言を心から賞賛する。ジュノサイドを生き延びた氏の存在・証言は、「悪徳の謎」に挑む、紛う事なき「正義の鉄槌」であると私は思う。

 虐殺者達が、自らの頭上に振り下ろされた「正義の鉄槌」に気が付いた時、彼らは命を奪われるよりも、遙かに大きな苦悩に魂を切り裂かれることになるだろう。

 魂を切り裂かれた絶望と苦悩の果てに、自らの罪深さを悔いるために血の涙を流しながら歩き始めた時、その時に初めて、彼らは人間として蘇生する道の入り口に辿り着くのだ。
 

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