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禁断のパンダ

 ★★★★★★★☆☆☆

 第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作、「チームバチスタの栄光」が非常に面白かったので、第6回「このミス」大賞受賞作「禁断のパンダ」を読んだ。

 思い返してみれば、私は今までにあまりミステリー小説は読んでこなかった。だからなのかも知れないが、作者にあっさりと騙されてしまった。それが結構気持ちがいいもので、今後、少し癖になりそうな気がする。

 本書は、料理に関する専門的な記述もあって、グルメな私(大嘘)は、大変興味深く読むことができた。

「以下引用」
 ワインをひと口飲んだ瞬間、幸太は目を見開いた。サービスマンがテーブルにクリスタルのワイングラスを置き、ボトルから中身を移してあったデカンタで白ワインを注いでいったときから、その澄み切った蜂蜜のような色と、微かに鼻腔をくすぐる甘い香りが気になっていたのだが、そのときは、まさか、という思いのほうが完全に勝っていてわからなかった。

 すぐにもう一度ワインを口に含み、今度はじっくりと舌の上で転がした。とろりとした舌触りと甘く高貴な味わいが広がった。間違いない、と幸太は確信した。一年前、結婚祝いとして知人から贈呈されて以来、忘れられない味がそこにはあった。

「この香りはディケムやな」

 幸太の驚く様子を眺めていた中島翁が、ぼそりと呟いた。

 シャトー・ディケム。糖度の高い甘口ワインである。貴腐ワイン、の中でも世界最高峰の品質として知られ、純金のワイン、とも呼ばれているそのフランス産白ワインは、味もさることながら値段も非常に高価なものだった。以前、幸太が訪れたことのあるレストランのワインリストには、最良の年とは言い難いヴィンテージのフルボトルで、一本八万円もの値段が付いていた。世界の食通たちの間では、フォアグラとよく合うワインとしても知られている。

 その高価なシャトー・ディケムが、まさか披露宴用のグラスワインとして出てくるとは思いもしなかった。そのことにも驚いたが、漂ってくる香りだけを嗅ぎ取って銘柄を言い当てた中島翁には、もっと驚いた。にわかには信じ難いことだった。

「わかるんですか」思わず、幸太は言葉を発していた。

「わかりますとも」中島翁は、事もなげに言った。「この、桜桃や杏、カラメルを思わせる甘く豊かな香りはディケムしかない。更に言いますと、そのディケムからは若さを感じますな。しかし、幼い若さではなく、成熟した若さです。おそらくは十年程前の偉大なヴィンテージ……一九九七年のものでしょう」

「まさか……」幸太は絶句した。それが本当だとしたら、卓越した知識もさることながら、この老人は驚異的な鼻を持っていることになる。
 幸太の思いを察したのか、中島翁は相好を崩した。

「信じられない、といった顔つきですな。よろしい、証明してみせましょう」

 そう言うと、中島翁は手を挙げてサービスマンの一人をテーブルに呼んだ。

「こちらの青年に出したワインの銘柄と、それが何年のものなのかを教えてくれ」

「かしこまりました」サービスマンはうやうやしく答えた。「料理に合う白ワインをという御要望でしたので、オードブルに合わせたものを御用意致しました。シャトー・ディケムの一九九七年ものでございます」

【『禁断のパンダ』 拓未司〈たくみ・つかさ〉(2009年、宝島社文庫)】

 私は酒の味は全然わからない。ワインなんてサントリーの一番安い物しか飲まない。それも、美味しいなんて一度も思った事はない。酒は味わうためではなくて、酔うためか眠るために飲むだけだ。

 酒の話はさておき、ミステリー小説を読むっていう娯楽は、結構な常習性を持っている物なのかも知れない。

 星七つ。

 ミステリーと、料理が好きな人にはお勧めの一書である。
 

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