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虐殺器官

  ★★★★★☆☆☆☆☆

 近未来軍事諜報SFです。

 帯で、宮部みゆきが「私には三回生まれ変わってもこんなのは書けない」と絶賛していたので購入しました。

 確かに凄い作品だと思います。
 作者である伊藤計劃(いとう・けいかく)氏は、私が読む限りただ者ではありません。小説の中に出てくるテクノロジーや軍事に関する用語は、一体どこまでが事実に基づいていて、どこからが作者の創作なのか、私にはまるで区別が出来ませんでした。

「以下引用」

 ぼくらが語る言葉の下に潜むもの。
 ぼくらが日常的に言葉から掬い取る「意味」をあざ笑うレイヤー。
 ジョン・ポールが語っているのは、そういうことだ。言葉にとって意味がすべてではない、というより、意味などその一部にすぎない。音楽としての言葉、リズムとしての言葉、そこでやり取りされる、ぼくらには明確に意識も把握もしようがない、呪いのような層の存在を語っているのだ。
「……耳にはまぶたがない、と誰かが言っていた。わたしの言葉を阻むことは、だれにもできない」
 ぼくは月明かりの影になったジョン・ポールの瞳を見ようとした。窓越しの満月(ルナ)は白く輝いていたが、その瞳に狂った(ルナティツク)ところは少しもないことに、ぼくは愕然とする。ジョン・ポールは完璧に正気で、それどころか少し哀しげであるようにすら見えた。
「あんた狂ってるよ」
 ジョン・ポールの正気は百も承知で、それでもなお、ぼくはそう言わずにはいられなかった。
【『虐殺器官』 伊藤計劃〈いとう・けいかく〉(2007年、早川書房)】 

 文体はスタイリッシュです。近未来世界が非常にリアルに描かれています。人物描写にも深みがあります。

 こう書くとべた褒めですが、私はそれほどのめり込めませんでした。それは単に好き嫌いの問題で、この手のSFが好きな人にはたまらない一冊だと思います。

 物語の核となるアイデアも洗練されています。

 細部にも行き届いた世界観が綴られています。

 読み終わった今、宮部みゆきの帯の言葉にも納得です。

 こう書くと大絶賛ですが、私の心は何故か躍りませんでした。
 どうしてなんだろうか?

 うーん……。(あばれはっちゃくスタイルで考えています)

 閃いた!

 多分、この物語が暗すぎるから、私は好きになれないんだと思います。
 とにかく、「暗い」というのが私がこの物語に感じたことです。物悲しいだとか、切ないだとか、悲劇だとかとはまた違う、徹底的な救いのない「暗さ」を、私は受け入れられなかったのかも知れません。
 
 スタイリッシュなSF(近未来軍事諜報系)が好きで、暗くても大丈夫という人には是非ともお勧めの一冊(フォローではなく文句なしの傑作)です。

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