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奇跡のリンゴ

  ★★★★★★★★★☆

 絶対不可能と言われていた無農薬・無肥料によるリンゴ栽培を成し遂げた、青森県のリンゴ農家、木村秋則氏の奮闘を描いた「奇跡のリンゴ」を読んだ。

 
 現在、我々が普通に食べているリンゴは、農薬が開発されてから品種改良が重ねられたもので、遠い祖先であるコーカサス山脈の野生種とはかけ離れた農作物になっている。果実の大きさと甘さを得た現代のリンゴは、農薬の助けが無くては病害虫と戦うことのできない、極めて弱い植物となってしまっているらしい。

 
 ある意味、リンゴは、農薬に深く依存した現代農業の象徴的存在であるとまで言われている。農薬を使わずにリンゴを栽培するなどと言えば、リンゴを作っている農家なら誰でも、「世迷いごと以外の何ものでも無い」と相手にさえしないという。

 
 木村秋則氏も最初は、他の農家と同じように農薬を使用していた。しかし、妻の美千子が、散布の度に一週間も寝込んでしまうほど農薬に過敏な体質だったことを一つのきっかけとし、誰も成し遂げたこと無いリンゴの無農薬栽培に挑戦していくことになる。

 
 「以下引用」

 すべてのリンゴ畑を無農薬にしてから三年が過ぎ、四年目になっても、リンゴも花はまったく咲く気配を見せなかった。
 貯えは底をつき、義父の郵便局の退職金も使い果たした。木村には小学四年生の長女を筆頭に三人の娘がいた。妻の両親とあわせて、一家七人が貧乏のどん底にいた。
 自慢のイギリス製のトラクターはもちろん、自家用車も、リンゴの輸送用に使っていた二トントラックも売った。税金の滞納が続いて、リンゴの木に赤紙が貼られたことも一度や二度ではなかった。そのたびに必死で金をかき集めて、競売をなんとか取り下げてもらった。銀行に金を借り、それでも足りなくなって消費者金融にも手を出し、実家の両親だけでなく、親戚からも借金をした。
 電話はとっくの昔に通じなくなっていたし、どうしても必要な電気や水道代を払うために金策をしなければならないほどだった。健康保険料が払えなくて、健康保険証も取り上げられてた。子供のPTA会費も払えなかったのだ。娘たちの服も、学用品すらまともに買ってやれなかった。

【『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』 石川拓治〈いしかわ たくじ〉 (幻冬舎、2008年)】

 最初は心配してくれていたたくさんの友人も、「いい加減に目を覚ませ」と厳しい口調で忠告に来た。「あいつは頭がおかしくなった」、「バカがうつるから近づくな」と、陰口を叩かれるようになった。
 一つの目標にとりつかれた真剣な男を、自分は傷つかない場所から見下ろす傲慢な人間が訳知り顔で批判する。自分は夢すら持っていないのにも関わらず、安穏なだけの人生を歩むことが人間の生きる目標だとうそぶくのだ。

 それでも応援してくれる友人はいなかったのだろうか? もし自分が木村氏の友人であったなら、友のためにエールを送り続けることができただろうか?

 六年が過ぎて夢が潰えたことを感じた木村氏は、一つの決意を実行に移すためにロープを携え岩木山に登った。誰にも見つからないところまで登って、そこで死ぬために。

 この時の、木村氏の心中を想像すると何か胸騒ぎさえ感じる。暗く寂しい山道を思い浮かべると、怒りに似たような悲しみが迫ってくる。

 木村氏は、一体どんな思いで山道を登って行ったのだろうか?

 
 決して自殺は肯定できないが、安易な批判も避けなければならないと私は思う。自死を決意したことのある人間の方が、実はそんな事はほんの少しも考えた事のない人間より真剣に自分の人生と向き合っているのかも知れない。

 自分の生命を絶とうとしたまさにその場所で、木村氏は潰えてしまったと感じていた夢を逆転させる奇跡の光景を目にする。その光景を、どん底の木村氏が目の当たりにした時の胸のすくような描写を、是非本書で読んで感動して頂きたい。

 
 木村氏は決意した自殺を忘れ去り、もう一度無農薬のリンゴ作りに没頭した。そこからの道のりも決して平坦ではなかった。木村氏は無農薬栽培にチャレンジして九年目に、ピンポン球ほどの大きさのリンゴを収穫することができた。

 木村氏が無農薬でリンゴを作り上げた姿勢を、私も見習わなければならない。
 掲げた目標は遠過ぎて、自分のいる場所からどれだけ離れているのかさえ判らない。
 

 でも決して諦めない。奇跡の果実を実らせるには、努力という養分が莫大に必要なのだ。

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